問題意識
扇風機を〈掛ける〉、エアコンを〈掛ける〉、電話を〈掛ける〉、ラジオを〈掛ける〉などのように機械を使うことを「〜を掛ける」という。一方で、扇風機を〈つける〉、エアコンを〈つける〉などのように〈つける〉ともいう。しかし、パソコンを〈つける〉とは言っても、パソコンを〈掛ける〉とはいわない。「パソコンで音楽を掛ける」の場合、目的語は音楽であり、パソコンは補助的な役割に過ぎない。
また、電話を〈掛ける〉と「電話を〈つける〉」とでは意味が違ってくる。
この違いはどこにあるのだろうか。
点灯
灯りを〈つける〉は点灯ともいうように、漢字では灯りを〈点ける〉と書く。ところで、部屋の電気はスイッチ式が多い。ここから、ボタンを押して機械を働かせると言う意味になるだろう。例えば、扇風機はボタンによって作動する、また、テレビなどもリモコンのスイッチなどで作動する。掛ける
一方、〈掛ける〉とは一般的に主語になる言葉に向かって何かが向かうイメージやその影響を表している。この際の方向は関係ない。例えば、水平方向で言えば「息を顔に〈掛ける〉」、上から下へは「鍋の水を猫に〈掛ける〉」、逆に、上から下へは「土を服に〈掛ける〉」等が挙げられる。
具体的な事物だけではない:
言葉を〈掛ける〉:言葉が相手に向けられている。
習い事に費用を〈掛ける〉:話者の費用が講師に向けられている。月謝を渡すときに封筒は講師に向かっているだろう。
料理に時間を〈掛ける〉:話者の時間が料理に向かっている。
気に掛ける:話者の気持ち、つまり意識が相手に向けられている。
5に4を〈掛ける〉:5に4がそれぞれ向けられている。下図参照*1
○ ○ ○ ○ ○
↓ ↓ ↓ ↓
○○○○ ○○○○ ○○○○ ○○○○
このイメージは「鍋の水を猫に〈掛ける〉」という文章と比較すれば解り易くなるだろう。
鍋の水
↓ ↓ ↓ ↓
水滴 水滴 水滴 水滴
↓
猫
「壁に絵を掛ける」などの文も壁に絵が向かっている、と解釈すれば包括的に説明ができる。
これらを踏まえると、機械がその機能として、何かを話者に向かわせているという意味合いのではないか。例えば、下記の文例が挙げられるだろう:
エアコンを掛ける:エアコンの冷気が話者に向かっている
扇風機を掛ける:扇風機の風が話者に向かっている
ラジオを掛ける:ラジオの音が話者に向かっている
タイマーを掛ける:タイマーの音が話者に向かっている。
電話を掛ける:電話のコール音が相手に向かっている。
一方、具体的に何かが話者に向かわない機械に対しては〈掛ける〉と言わないのではないか。例えば「パソコンを掛ける」と言わないのはそのためではないか。
*1 ただしこの解釈は納得がいかない。日本語の意味として包括的な解釈があれば求む。ただし注意して欲しいのは、あくまでも日本語における「掛ける」の一般的な意味についての考察であり、乗算そのものの考察ではない。つまり「気に〈掛ける〉」、「絵を〈掛ける〉」の「掛ける」の用法と比較したいのであり、可換・非可換などの群論の話をしているのではない。
- 他人が【こわい】(恐い/怖い)
- かけ算の順序を厳守すべきだと主張する二つの理由
- 兇器/凶器