あらすじ
海を漂っていた男を、イタリアの漁船が救助する。銃弾を受け、海に投げ出されていたのだ。彼は意識を取り戻すが、名前すら思い出せない。皮膚の下にはマイクロカプセルが埋め込まれており、ボタンを押すとレーザーで銀行口座が映し出された。チューリッヒの銀行に到着して、貸し金庫に預けていたものを受け取ると、ジェイソン・ボーンだと書かれていた。しかし各国の紙幣や別名義のパスポートも複数枚見つかり……。
自分探しの物語
アイデンティティと日本語で言いますが、同一であること、同定することという意味です。アイデンティティは「自己同一性」とも訳され、過去の自分と現在の自分が同一人物だと考えている根拠です。偽造パスポートが複数ある場面は、分裂しているアイデンティティの象徴とも言えましょう。監督も語っているように*1この物語は自分を探す物語ですが、果たして自分を失っているのはボーンだけでしょうか。
マリーもまた自分を失っているように思います。マリーは「放浪癖があり」*2、帰る家がありません。アイデンティティと言えば、自分だけの問題だと捉えられがちですが、アイデンティティは帰属意識に関わっています。例えば日本人、家系。これらの事柄は自分自身と密接に結びついていますが、マリーは帰る家がありません。つまり、家を通して自分を探しているのです。
流浪の民という点においても、各国の紙幣がジェイソン・ボーンの貸し金庫から見つかったというのは示唆的。各国の紙幣もまたマリー同様、流浪の旅を連想させます。
*1 『映像特典 ダグ・リーマンによる音声解説』(ダグ・リーマン[監督]『ボーン・アイデンティティ』ユニバーサル・ピクチャーズ)
*2 原文はGypsyとなっている。放浪癖というと、家があるように聞こえるが、Gypsyは流浪の民である。