ブログネタ
哲学 に参加中!
形而上学叙説 ライプニッツ−アルノー往復書簡 (平凡社ライブラリー ら 7-1)

この本を読んだ経緯

 今はフランス現代思想よりもその議論の前提となっている哲学者を読みたいなー、と思って、ライプニッツを借りてきました。岩波文庫もあったけど、翻訳が旧字体や旧仮名遣いだったよ! できれば改訳して欲しいよ。いや読めないこともないんだけど、できれば新訳のほうがありがたい……。
 ジル・ドゥルーズが取り上げてるのでそれに絡んだ哲学者ってのもありますし、前回読んだ九鬼周造が『偶然性の問題』で取り上げていた、という前回の流れもあります。そして、一応、ライプニッツが書いた本で『単子論』など哲学関係で文庫化されているものは全て読んだことになります。二冊しかないので当たり前ですが。
 しかも、その思想体系を全て理解した、とは到底言えませんが……^^;

『形而上学叙説』

 さて、『形而上学叙説』で述べられているのは「この世は神によって最善の状態に保たれている」という内容です。これは『単子論』*1にも述べられているのですが、「神〔訳者注:の技巧〕は、初めにこれら実体の各を造った時から各実体がその存在と共に受取った自分自身の法則にのみ従って行っても他の実体と恰も相互の作用があるかのごとく、神がいつも一般的協力以上にいつもそこへ手を下しているかの如く一致するようにしておいたとする」、とあるように神がすべての事象を一致させておいている、という考えなんですね。

神から人へ

 そしてそれは「神はすべてを最善におこな」っているという考えにもあらわれてくるのですしかし人間は何もしなくてもいいという考えではありません。むしろ「全てが善になるように望んでいる」神の意志を汲み取りながら行動しなくてはいけないとしているのです。
 〔我々は〕神のすることを腕組みして眺めるようなこっけいな真似はゆるされない。むしろ、(中略)一般的な善のために、その中でも自分に触れるもの、身近にあっていわば手に届くものを美しく完成させるために、全力をあげて貢献しなければならないのだ
 初めは神が主体で人間がそれに従属する、という印象を受けたのですが、こうして見ると人間が積極的に神の意志を汲み取ることで世界がよくなるという主張であるとも解釈できます。
 フランス革命の約100年前ですが、ジョン・ロックがすでに活躍してました*2。 またピューリタン革命が1642年、名誉革命が1688年に起きていて、ライプニッツは革命の時代に生まれたといえます。
 オルテガは『ライプニッツ哲学序説』*3において、ユークリッドとライプニッツの演繹法を比較しています。彼によるとライプニッツは人間個人の理性が考えられ始めた時代だと述べています。山内志朗は『ライプニッツ』*4の中で宗教画よりも肖像画が多く描かれていることを述べた上で、個人が重視され始めたとしています。いずれにしても神から個人へと関心が段々と移っていったことは間違いないと思います。

三十年戦争

 さて、ライプニッツの生きた時代で大きい事件は三十年戦争です。「1618年にオーストリア領ベーメン(ボヘミア)で新教徒貴族が皇帝に反抗したのがきっかけ」*5として始まっています。
 つまり宗教対立が大元となっているのです。なぜ、戦争で荒廃している中、ライプニッツが後に楽天主義とも言われるような考えになったのかという手がかりはここにあると僕は考えています。
 ポジティブにならざるを得なかったのではなく、宗教対立の本質は善と善との戦いです。どちらか一方が悪いということはないのです。ライプニッツは『形而上学序説』において聖書解釈を中心としたスコラ哲学を否定していません。
 スコラ哲学者や神学者の見解は、しかるべく適切な場面で使用されるのであれば、思われているよりもずっと確固たるものである(中略)もしだれか厳密で思考力のあるひとが、解析幾何学者のやり方で、これらすこらのひとびとの思想を解明し整理する労をとってくれれば、このひとは、きわめて重要で完全に証明された真理の詰まった宝庫をそこにみいだすだろう。
 この一段落は、三十年戦争が聖書解釈の齟齬によって生じたということを見抜いているとも解釈できます。また、法律に関する著作も残しているのですが、自然法を強く意識しています*6。
 これは同年代に活躍したトマス・ホッブズの影響もあるかもしれませんが、三十年戦争を意識しているとも受け取れます。

*1 ライプニツ『単子論 』(岩波書店)
*2 ライプニッツはロックの『人間知性論』に反論する形で『人間知性新論』(みすず書房)を書いている。
*3 オルテガ・イ・ガセット『ライプニッツ哲学序説』(法政大学出版局)
*4 山内志朗『ライプニッツ』(日本放送協会)
*5 柴田三千雄、弓削達、辛島昇[他]『新世界史』(山川出版社)
*6 ルネ・ブーヴレス『ライプニッツ』(白水社)