ブログネタ
最近読んだ本 に参加中!
赤い月、廃駅の上に (幽BOOKS)

経緯

 マイミクさんとスカイプで話している際に勧められた一作です。中でも表題作が面白いとのこと。そうかなぁ?^^;まぁ好みは人それぞれだからいいけど、僕は「海原にて」「シグナルの宵」、それから「最果ての鉄橋」が面白かった。
 他にも安部公房の『カンガルーノート』を勧められましたが、こちらは楽しみにとってあります(笑)。有栖川有栖というと、『月光ゲーム』*1そして『46番目の密室』*2など新本格推理小説としてのイメージが強いと思うのですが、これは怪談です。
 この短篇集には主に『幽』が初出の小説が収められています。そしてどれも鉄道をテーマとしており、『有栖川有栖の鉄道ミステリライブラリ』*3の著者らしい一作です。この『幽』は「日本初の怪談専門誌」*4で、他にも綾辻行人、京極夏彦などそうそうたるメンバー。
 ……でもホラーというよりは、幻想小説の類かな。最後の「途中下車」は幽霊が出てきてもちょっといい話。

ショートショートの基本「海原にて」

 「海原にて」はこの短篇集でも珍しく船が舞台です。といっても最後の最後でちょろっと列車が出てくるのですが、この物語は長い割にショートショートの基本を活かしている、という点です。
 読者は誰も現代だと思いながら読むわけです。しかし近未来であり、最後に出てきた新幹線が実は幽霊だったと明かされるのです。まぁ幽霊船という言葉があるくらいですので、列車の幽霊という発想は意外といえば意外でしたが、なぜかそんなに驚きませんでした。
 これは本書収録の「テツの百物語」にも言えることなんですが、どうせなら某かの形で関係性を持たせたらさらに面白くなったと思います。

ユーモアたっぷりの「最果ての鉄橋」

 「最果ての鉄橋」。これが一番面白かったです。「小舟から蒸気船へ、大型フェリーという変遷を経て、数年前から鉄道に切り替わったのだとか」とあるように、三途の川を渡るのに今は船ではなく、鉄橋が架かってそこに「三途ライナー」という列車が走っている……。、
 しかし、そこの鉄橋は手抜き工事でみんな三途の川に放り出される、という話です。いい意味でバカバカしいwww。

なぜ笑えるのか

 なぜ笑えるのか。そもそも笑いの根源は論理をずらすことにあります。例えばケイシー高峰の面白さは医療の講義の論理をずらしている、つまり医療の講義の外観を取りながらも中身は社会諷刺など実際には別の話である、というところにあります。
 この「最果ての鉄橋」も〈あの世〉だというのに、「どういう構造になっている」のか「呑気な質問」をしている八田。「浅瀬にケーソンを沈めて建てた」と答える車掌。
 千尋の深さですが川底の地形が複雑で、山脈のように盛り上がった箇所があるのです。そのためフェリーの航行に支障をきたすことがあり、橋をかける理由の一つとなりました。
 リアリティの演出は感情描写でもなければ、リアリティあふれるストーリー展開でもない。こういう細部をどれだけ詳しく描くかである。
 しかし大枠の筋としては〈あの世〉なので、どこまでいっても非現実の世界だということは分かっています。そのちぐはぐさがユーモアの原因ではないかと僕は思います。

死の偶然性

 八田社長たちは「慰安旅行に出掛けた先でバスが谷底に転落し、不幸にも揃って死んでしまったらしい」とあるように、死は全くの偶然です。いや、それだけではありません。杏野も「北薬師岳の尾根をたどっていたとき、にわか雨に襲われ、うっかり足を踏みはずして」死にます。
 このように少なくとも「最果ての鉄橋」の登場人物たちは運命というよりは不幸な偶然によって死んでいるのです。したがって閻魔の裁きによって情状酌量が認められたのでもなければ、「車掌の目を盗んで逃げ出す」計画が成功して生き返るわけではありません。列車事故という偶然を通して、八田たちは生き返るのです。死ぬのが偶然である以上は生き返るのも偶然でなければいけない、という解釈が成り立ちます。

『毒入りチョコレート事件』風怪奇小説? 「シグナルの宵」

 さて、列車自殺を遂げた大庭が、生前彼が行きつけだったバーの〈シグナル〉に現れる。しかし現れた男は双子の弟だと語るが、親しくしていた常連客たちからはいろいろな推理が飛び出す。
 この物語は『毒入りチョコレート事件』*5を思い起こさせます。『毒入りチョコレート事件』も複数の解決が示され、しかもそれが謎を残したまま終わる、という変わった推理小説です。シグナルの宵においても中久保の、
 だったら死んでいなかったんだ。そう考えるのが合理的というものです。(中略)人違いだったのかもしれません。鉄道自殺だったら、遺体はかなり損傷していたものと思われます。警察が身元を確認する際、誤ることもありますよね。
 という台詞から、色々な推理を出します。短篇なのでそんなにバリエーションはありませんし、ほぼ高坂一人の推理です。
A「大庭さんが誰かを犯罪に見せかけて殺した」
B「何かの偶然が重なって、鉄道自殺した赤の他人が大庭さんと勘違いされた。(中略)『これはチャンスだ。厄介事から逃れるために俺が死んだことにしてしまおう』と考えたのではないか。
C「失踪願望」
 高坂は、BはAを補足する形で朋美に提出していますが、Aは朋美のバイアスがかかった推理です。だから読者には二つの可能性として提示されるのです。

ラスト

 「双子の弟」と名乗る人物について、このように現実的な可能性を模索しています。しかし、ラストはそのどちらでもない、というラストが待っています。
 この辺りは想像がついてしまって、残念でした。

*1 有栖川有栖『月光ゲーム』(東京創元社)
*2 有栖川有栖『46番目の密室』(集英社)
*3 有栖川有栖[編]『有栖川有栖の鉄道ミステリ・ライブラリー』(角川書店)
*4 wikipedia「」より引用。
*5 アントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』(東京創元社)


にほんブログ村 小説ブログ 小説読書感想へ